2012年1月28日土曜日

17:10-17:35
 
情動の測定から操作へ
―ウィリアム・M・マーストンによる嘘発見器と映画の心理学をめぐる批判的考察
篠木涼(日本学術振興会特別研究員)
 
  情動は、1970年代以降、映画理論においては主として精神分析を参照することで議論の俎上に載せられてきたが、1990年代半ば以降、神経科学や心理学など諸科学における研究の進行と歩調を合わせるかのように、文化研究・社会学・政治思想などにおける批判的思考の重要な立脚点となりつつある。身体を媒介に他者を突き動かし、また突き動かされる情動の相互作用的な性質が、それぞれの領野においていかに作動し作動させられているのかが問題となっているのである。映画研究においては、画面上の身体が、画面内でそれを取り囲む環境と、さらには画面外の観客の身体と、情動の点でいかなる関係を取り結んでいるのかが問われる。このような情動論への着目によって、映画理論自体の歴史を捉え返すことができる。近年認知派による再評価が著しいルドルフ・アルンハイムなどの知覚と記憶を中心とした初期の映画理論の理解に、情動を中心とした映画理論の系譜を付け加えることができるだろう。おそらく、そこで重要な意義をもつのは、ヒューゴー・ミュンスターバーグの下で心理学者となり、情動の変化を測定する嘘発見器の理論を展開するとともに、映画観客の反応の実験を行ったウィリアム・モールトン・マーストンの理論である。彼の理論は、映画を観客の情動の操作として捉えるものだった。本発表は、マーストンの嘘発見器の理論と映画理論を、現代の情動論の観点から考察するものである。