2012年1月28日土曜日

16:10-16:35
 
アビ・ヴァールブルクと映画的想像力の政治学
岡本源太(京都造形芸術大学非常勤講師)
 
  一般に「イコノロジー」の創始者として知られる美術史家アビ・ヴァールブルク(Aby Warburg,1866-1929)がもたらした美術史学の刷新は、ジョルジョ・アガンベンやフィリップ=アラン・ミショーらによって指摘されてきたように、黎明期にあった当時の映画の理論や実践と興味深い符合を見せている。言うなればヴァールブルクは、あらゆる造形芸術をあたかも映画から切り取られた一コマのスティル写真であるかのように分析しているというのである。こうしたヴァールブルクの分析手法に働いている想像力の在り方を、「映画的想像力」と名指すこともあながち的外れではないだろう。とすれば、その分析手法に秘められた政治的企図もまた、実のところ映画と通底しているのではないだろうか。ヴァールブルクによれば、芸術に描き出された表象とは、一歩間違えれば狂乱や暴力を引き起こす「社会的記憶」にほかならない。そうした生じうる社会的不和を診断し治療する想像力の実践こそが、ヴァールブルクの美術史研究だったとするなら、この政治的企図をふたたび映画そのものに差し戻すこともできるだろう。本発表では、あらためてヴァールブルクの試みと初期映画とを照らし合わせることで、映画的想像力の政治学の素描を試みたい。