2012年1月28日土曜日

15:40-16:05

「映画と歴史叙述:第二次世界大戦の記録映像から」 
土山陽子(フランス国立社会科学高等研究院博士課程)
 
  本発表では、第二次世界大戦の記録映像を元に制作された映画をいくつか取り上げ、そこに表された出来事と歴史解釈を巡って考察を広げたい。たとえばクリント・イーストウッドの映画『父親たちの星条旗』(2006年)では、1945年にピューリッツァー賞を受賞したジョー・ローゼンタールの有名な写真「硫黄島の星条旗」にまつわるエピソードの真相が描かれている。すり鉢山に旗を立てる場面は映画フィルムでも残されており、戦争博物館では歴史的資料として取扱われている。イーストウッドは、記録映像を元に過去の出来事を再現するだけでなく、映像には残されていなかった歴史的事実も映画の中で描いた。
  写真・映像資料、文書、証言といったドキュメントを元に歴史的場面を再現した映画では、それらの史料に基づく歴史解釈の作業が伴う。史実にまつわる要素を物語に組み込む際、映画監督は歴史家とは別の立場で、過去の出来事を映画という形で再現するプロセスに立ち会う。映画は、言葉で書かれた歴史よりも、より「現実らしさ」を再現できる一方で、語り手の立場やカメラの位置、ショットの繋ぎ方といった映画特有の語りにはいくつかの問題がある。特に記録映像の引用やそれを元にした場面の再現の仕方に着目しつつ、映画を通して歴史を語ることについて考えてみたい。