2012年1月28日土曜日

14:40-15:05

映画法下における原作・シナリオの懸賞制度と映画の公共性
溝渕久美子(中部大学非常勤講師)
 
 すでに様々な日本映画史で記述されている通り、1939年の映画法施行以降、映画に関わる様々な国家統制が行なわれ、映画産業が企画制作から興行に至るまで国家の厳しい管理下に置かれた。こうした状況下において、時局に合わせた映画製作が望まれた結果、1940年頃から数多く見られるようになるのが「国民」にストーリーやシナリオを求めた、内務省主催の「国民映画・国民演劇脚本募集」のような懸賞制度である。これらの懸賞は特に参加資格の限定がなく、階級や職業、性別、学歴、居住地に関係なく日本語リテラシーを持ち、戦時下の思想に合意する者であれば誰でも参加することができた。これらの懸賞は、大衆=映画観客が国民のための映画である「国民映画」の制作に参加するという感覚を与えた。つまり、映画観客は国家や映画制作者が生み出した映画を鑑賞するだけの存在ではなく、「国民」として映画原作やシナリオの懸賞制度を通じて物語の作り手としても動員されたのだ。本発表では、映画法下における映画原作・シナリオの懸賞制度の実態を明らかにすることで、「国民映画」とは果たしていかなるものだったのか、さらに戦時下における映画の公共性がいかなるものであったのかを考察していきたい。